飲食店を運営していると、毎日、さまざまなコストがかかり、経営を圧迫します。利益を増やすため、売上を伸ばすと同時にコスト削減を図りたいと考えている経営者は多いでしょう。ただし、コスト削減は簡単ではありません。強引に進めると、店舗の評判やスタッフのモチベーションを落としてしまうことも考えられます。コスト削減は計画的に進めるべきといえるでしょう。
この記事では、飲食店がコスト削減で見直すべきポイントと具体的なコスト削減方法を紹介しています。以下の情報を参考にすれば、どのような点に気を付けて取り組めばよいかがわかるはずです。
飲食店のコスト削減で見直すべきポイント
コスト削減にあたり見直したいポイントは、次の通りです。
固定費・変動費
飲食店のコストは、以下の2つに大別できます。
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固定費
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変動費
固定費は、売上などにかかわらず、毎月一定の負担が発生するコストです。具体的には、店舗の賃料、スタッフの人件費(正社員)、福利厚生費、減価償却費、光熱水費、物品リース費などが該当します。
変動費は、売上などに応じて変動するコストです。具体的には、原材料費、外注費、広告宣伝費などが該当します。また、アルバイトやパートへ支払う給与も変動費に分類されます。
固定費と変動費に分類する主な理由は、優先的に削減するコストを見極めるためです。利益に与える影響を評価しやすくなります。
FLRコスト
固定費・変動費以外では、FRLコストを使っても店舗の経営状態を評価できます。FLRは「Food」「Labor」「Rent」の頭文字で構成される略語です。それぞれ「食材費」「人件費」「賃料」を意味します。FLRコストは、これらにかかった費用です。例えば、Fが70万円、Lが40万円、Rが20万円のように用います。
売上に占めるFLRコストの割合を、FLR比率といいます。上記の例で売上が200万円であれば、FLR比率は65%になります。一般的なFLR比率の目安は、70%以下です。FLRコストがこれを超える場合は、コスト削減を積極的に検討するほうがよいでしょう。「食材費」「人件費」「賃料」以外にもコストはかかるため、このままでは利益を残しにくいと考えられるからです。
変動費「原材料費」を削減する方法
コスト削減するうえで見直したいのが、原材料費です。一般的に、飲食店における目安は売上の30%程度といわれています。割合が高いため、見直しにより経営状態を改善できる可能性があります。
仕入れ先の切り替え
原材料費を削減したい場合は、仕入れ先を見直すとよいでしょう。同じ食材でも、仕入れ先により価格は異なることがあるからです。現在の仕入れ先よりも安価な仕入れ先を見つければ、原材料費を削減できます。
新しい仕入れ先を見つけるコツは、複数の業者から見積もりをとって比較することです。それぞれに得意分野があるため、価格の違いがはっきりします。例えば、肉類が安い、魚介類が安い、調味料が安いなどのように特徴がわかります。また、複数の仕入れ先から見積もりをとることで、各食材の相場も把握できます。この点も、コスト削減につながるポイントです。ただし、仕入れ先を切り替えるときは、食材の品質に注意しなければなりません。コストとともに品質まで低下すると、顧客の信頼を失ってしまいます。食材の品質を維持しつつコストを削減することが重要です。
大量発注による仕入れ単価引き下げ
大量発注による仕入単価の引き下げを、仕入れ先に相談することもできます。仕入単価を引き下げられる理由は、仕入れ先における固定費の割合が低下するからです。すべてのケースで実現できるわけではありませんが、相談する価値はあるでしょう。
ただし、大量発注する食材選びは慎重に行わなければなりません。食品ロスのリスクを考えると、生鮮食品の大量発注は難しい店舗が多いはずです。このような店舗でも、ドリンク類であれば検討できるのではないでしょうか。複数店舗を運営している場合は、発注方法を変更することで生鮮食品の大量発注を実現できる可能性があります。具体的には、店舗単位の発注から本部一括発注に切り替えるなどが考えられます。
メニューを絞って仕入れ数を減らす
メニューを絞ることでも、原材料費を抑えられる可能性があります。仕入れる食材と廃棄する食材の数を減らせるからです。ただし、残すメニュー、外すメニューはよく考えなければなりません。ポイントは、売れているメニューに絞り込むことといえるでしょう。あまり売れていないメニューを残すと、わずかな注文のために食材を仕入れなければなりません。売れているメニューと比べると、廃棄のリスクは高くなります。メニューの絞り込みにより顧客満足度の低下が予想される場合は、継続して仕入れる食材を使って新メニューを考案するとよいでしょう。
変動費「人件費」を削減する方法
人件費も、売上に占める割合が高いコストです。飲食店における目安は、売上の20%前後といわれています。これより著しく高い場合は、見直しが必要かもしれません。人件費を削減するため、まっ先に思い浮かぶのが給与の引き下げとシフトの減少です。
確かに、人件費を削減できますが、スタッフのモチベーションに影響するため、サービス品質の低下やスタッフの離職につながる恐れがあります。基本的には、これら以外の方法を検討するべきと考えられます。どのように人件費を削減すればよいのでしょうか。
時間帯や曜日によって人員調整を入れる
スタッフの配置を最適化することで、人件費を削減できる可能性があります。具体的には、お客様が少ない時間帯、曜日はスタッフの数を減らす、お客様が多い時間帯、曜日はスタッフの数を増やすなどを検討できます。考え方としては、スタッフの配置にメリハリをつけて無駄を省いているだけです。したがって、サービス品質は維持できるケースが多いでしょう。
スタッフの配置を最適化するため必要になるのが、来店客数をはじめとするデータです。この取り組みには、ある程度の準備が必要になります。もちろん、勘と経験でスタッフの配置を決めることもできますが、思い込みに基づくと予想を外すケースが多くなります。根拠に基づき、スタッフの配置を検討することが重要です。
ICTを活用して生産性向上に努める
ICTを活用して人件費を削減することも可能です。例えば、各テーブルにオーダー用のタブレットを設置する、セルフレジを導入する、配膳ロボットを導入するなどが考えられます。注文をとるスタッフ、会計をするスタッフ、配膳をするスタッフの数を減らせるため、人件費削減につながるでしょう。また、飲食店で問題になりがちな人材不足に対処できる点も魅力です。
ただし、導入にあたり一定のコストがかかります。コストをかけすぎると、回収に時間がかかり、店舗経営を圧迫してしまう恐れがあります。費用対効果を見極めて導入することが重要です。
変動費「広告宣伝費」を削減する方法
見逃されがちな変動費として、広告宣伝費があげられます。飲食店における広告宣伝費の目安は、売上の5%程度です。広告宣伝費の削減はどのように進めればよいのでしょうか。
無料で活用できるサービスに取り組む
広告というと、有料で出稿するタウン情報誌などを想像しがちです。しかし実際は、無料でお客様に店舗の存在を伝えるさまざまなサービスが存在します。広告宣伝費を削減したい場合は、これらのサービスを活用するとよいでしょう。
代表的なサービスとしてあげられるのが、SNSです。若年層を中心に、SNSで地域の情報を収集する方が増えています。ターゲットを絞ったうえで、お店の魅力を発信すれば、効果的なアピールになるでしょう。注意点は、SNSにより主な利用者層、主な利用目的が異なることです。店舗の特徴にあわせて選択する必要があります。
同様に、Googleビジネスプロフィールも積極的に活用したい無料のサービスといえます。登録することで、Google検索、Googleマップに表示される店舗の情報(営業時間、電話番号、料理の写真など)を管理できます。また、お客様が投稿した口コミに返信してコミュニケーションを図ることも可能です。
広告宣伝の効果を計測する
なんとなく広告出稿を続けている飲食店は少なくありません。出稿費用がかかっているのであれば、効果を計測する必要があります。金額に見合った効果がなければ、見直しの対象になるからです。集客につながっていない広告を停止したり、利用する広告プランを見直したりすることで、広告宣伝費の削減につながる可能性があります。
一般的に、オフライン広告は効果計測が難しいとされています。しかし、計測方法がないわけではありません。例えば、紙媒体の広告に切り抜きの割引券を付けておく、専用の電話番号で予約を受け付けるなどが考えられます。必要性を判断するため、オフライン広告も効果を測定しましょう。
変動費「通信費・消耗品費」を削減する方法
飲食店を運営していると、通信費や消耗品費などもかかります。これらの変動費も工夫次第で削減できます。具体的に、どのように削減すればよいのでしょうか。
電話回線を見直す
固定電話を引いている飲食店は、電話回線を見直すことで通信費を削減できる可能性があります。サービスやプランにより料金などは異なるからです。ただし、利用する電話回線は慎重に見極めなければなりません。基本料は安いものの通話料が高い、基本料は高いものの無料通話が含まれているなど、さまざまな選択肢があるからです。
また、飲食店の場合は、予約用の電話番号と発注用の電話番号をわけたいケースが多いでしょう。料金が安いことはもちろん、実際の利用シーンも考えて電話回線を選択する必要があります。
店内BGMを音楽アプリに切り替える
飲食店の演出に、店内BGMは欠かせません。高額な有料サービスを契約している店舗は多いといえます。店内BGMにかかるコストを削減したい場合は、音楽アプリの利用を検討するとよいでしょう。JASRACへ支払う使用料を含みながら、負担を抑えられる可能性があります。基本的に初期費用がかからない点も魅力です。
サービスの詳細はさまざまですが、豊富なチャンネルを用意している音楽アプリが少なくありません。このようなアプリであれば、飲食店のコンセプトに合わせた店内BGMを見つけられるはずです。具体的なサービス内容は、各音楽アプリでご確認ください。
MVNOや格安プランに切り替える
携帯電話も、飲食店の運営に必要なツールです。お客様から予約を受けることもあれば、発注で電話をかけることなどもあるでしょう。携帯電話料金の見直しも通信費の削減につながります。
具体的な方法として、MVNOや格安プランへの切り替えがあげられます。MVNOは、他社から無線通信インフラを借りてサービスを提供している事業者です。現在では、さまざまなMVNOが登場しているため、使い方に合っているサービスを選びやすくなっています。プランが多様化しているため、携帯キャリアについても同様のことがいえます。数年前に契約したままになっている場合は、携帯電話会社やプランを見直すとよいでしょう。
固定費「地代家賃」を削減する方法
賃貸物件で店舗を運営している場合、地代家賃もかかります。一般的に、地代家賃の目安は売上の10%以内といわれています。これよりも割合が高い場合は、見直しが必要かもしれません。ここでは、地代家賃の削減方法を解説します。
オーナーに家賃交渉をする
店舗の家賃は、オーナー(貸主)との交渉で引き下げられるケースがあります。店舗周辺の家賃相場が下落している場合などは、相談してみる価値があるといえるでしょう。ただし、オーナーを納得させる値下げの根拠が必要になります。したがって、家賃相場の調査、現在の賃料に対する客観的な評価などが欠かせません。専門的な知識がない場合、交渉を成立させることは難しいといえます。
そこで活用を検討したいのが、不動産のプロなどが専門的な知識・技能をいかし賃料の削減を目指してくれる賃料適正化コンサルティングです。自分で交渉するよりも成功の確率は高くなるでしょう。
移転を検討する
店舗の移転でも、地代家賃を引き下げられます。家賃引き下げの交渉がまとまらないときなどに検討したい方法です。ただし、店舗を移転すると、売上に悪影響が及ぶ恐れがあります。メリット・デメリットを慎重に見極めなければなりません。売上が減ったとしても家賃の削減分で利益が増える場合は、移転を積極的に検討できます。削減できる家賃よりも売上・利益の減少のほうが大きい場合は、よく考える必要があるでしょう。店舗経営全体を見据えて判断することが重要です。
シェアキッチンを使用する
飲食店の営業スタイルによっては、シェアキッチンの活用も考えられます。ここでいうシェアキッチンは、キッチンを共同使用する施設です。複数の飲食店で家賃を分割するため、単独で店舗を借りるよりも地代家賃を抑えられる可能性があります。同様の理由で、開業費や閉店費を抑えやすい点も魅力です。
ただし、すべての飲食店がシェアキッチンに適しているわけではありません。基本的には、中食メイン(フードテイクアウト、フードデリバリー)の事業者などに向いていると考えられます。また、シェアキッチンの利用方法もさまざまです。詳細を確かめてから使用しましょう。
固定費「水道代」を削減する方法
飲食店を経営するにあたり無視できない固定費が、水道代です。ここでは水道代を削減する方法を紹介します。
水の「つけおき」を行う
食器や調理器具を洗うときに「つけおき」を行うと、水道代を削減できる可能性があります。使用する水の量を減らせるからです。東京都水道局によると、5分間流しっぱなしで食器洗いをした場合に使用する水の量は約60リットルです(1分間に12リットル使用)。「つけおき」で水を流す時間を2分に短縮すると、使用する水の量は24リットルになります。毎日、大量の食器や調理器具を洗う飲食店では、大きな節約につながることがあります。
自家水道システムを導入する
店舗で使用する水を、自施設内で確保する方法を自家水道システムといいます。基本的には、敷地内で採掘した井戸の水を処理して使用します。上水道を使用する必要がなくなるため水道代を大きく節約できる可能性があります。
ただし、水を無料で利用できるわけではありません。自家水道システムの料金体系は、初期費用・メンテナンス費用などが無料で水道使用料がかかるESCO方式、水道使用料が無料で初期費用・メンテナンス費用などがかかる買取方式にわかれます。どちらを選んでも一定の費用はかかるため、目的などを踏まえて選択する必要があります。
下水道料金減免制度を活用する
水道代は、上水道料金と下水道料金で構成されます。下水道料金は、使用した水がすべて下水道へ流れたものとして算出します。しかし実際は、蒸発する水、お客様へ提供する水などもあるため、すべてが下水道へ流れるわけではありません。下水道へ流れていない水を消失水といいます。消失水が一定量以上の場合、下水道料金の減額を受けられることがあります。この制度が下水道料金減免制度(または減量制度)です。具体的な数値基準、申請方法、認定方法などは自治体で異なります。消失水が多い場合は、詳細を確かめるとよいでしょう。
節水機器を導入する
節水機器を使用することでも、水道代を削減できる可能性があります。水の使用量を減らせるからです。具体的な仕組みは製品で異なりますが、専用の部品で水の流れを妨げて蛇口から出る水の量を減らすものや、水に外気を取り入れて蛇口から出る水の量を減らすものなどがあります。
また、節水機器の中には、高圧洗浄機能など特殊な機能を備えているものも存在します。使用環境にあわせて製品を選ぶと、水道代を削減するだけでなく作業効率も高められるかもしれません。
固定費「ガス代」を削減する方法
ガス代も、飲食店が意識したい固定費のひとつです。一般的な飲食店の場合、光熱水費の中で電気代の次に高くなるといわれています。どのように削減すればよいのでしょうか。
給湯器を見直す
古い給湯器を使用している場合、最新のものに交換するだけでガス代を削減できる可能性があります。古い給湯器は基本的にエネルギー効率が低いうえ、経年劣化によりエネルギー効率がさらに低下している恐れがあるからです。もちろん、使い方の見直しも欠かせません。状況を問わずお湯を使用する、お湯を出しっぱなしにしているなどの使い方をしていると、ガス代は高くなってしまいます。スタッフの意識改革も必要です。
別プラン・他社に乗り換える
ガスは、プロパンガスと都市ガスにわかれます。プロパンガス、都市ガスとも自由化されているため好きなガス会社と契約できます。ガス会社により、プラン・料金はさまざまです。したがって、別プラン・別会社へ乗り換えることによっても、ガス代を削減できる可能性があります。複数のガス会社から見積もりをとって、ガス代やサービス内容を比較するとよいでしょう。特に、プロパンガスは取扱会社が多いため選択肢が豊富です。乗り換えにより、大きなコスト削減につながることもあります。
固定費「電気代」を削減する方法
一般的に、電気代は光熱水費の中で最も大きな割合を占めるといわれています。コスト削減の効果を実感しやすい固定費と考えられるでしょう。ここでは電気代の削減方法を紹介します。
LED照明を使用する
店舗で白熱電球などを使用している場合、LED照明に交換すると電気代を削減できます。資源エネルギー庁が運営している省エネポータルサイトの発表によると、54Wの白熱電球から9Wの電球型LEDランプへ交換することで年間約2,790円の削減になります(電気:31円/kWhで算出)。年間の使用時間を2,000時間に設定して電気代を算出しているため、店舗の営業時間によってはさらに電気代を削減できる可能性があります。確実に電気代を削減できるため、積極的に検討したい方法といえるでしょう。
エアコンの設定温度を調整する
エアコンの設定温度を調整することでも、電気代を削減できます。省エネポータルサイトの発表によると、外気温31度のときにエアコンの設定温度を27度から28度へ変更することで年間約940円の節約、外気温6度のときにエアコンの設定温度を21度から20℃へ変更することで年間約1,650円の削減になります。
ただし、店舗で設定温度を変更する場合は、お客様の快適性にも配慮が必要です。設定温度の変更が難しい店舗は、フィルターを1ヶ月に1~2回清掃するとよいでしょう。フィルターが目詰まりしているエアコンと目詰まりしていないエアコンを比較すると、後者の電気代は年間約990円も安くなります。
別プラン・他社に乗り換える
電力会社の多くは、定期的に新しいプランを開発しています。時間帯別料金などを設定しているものもあるため、使い方にあわせてプランを選択すると電気代を削減できる可能性があります。2016年に電気小売業が全面自由化された点も見逃せません。飲食店を含む需要家は電力会社を自由に選択できるようになっています。
電力会社によりプランやサービスなどは異なります。中にはガスとセットで契約することで、割引を受けられるプランを用意しているところなどもあります。別の電力会社へ乗り換えることも、電気代を削減する方法のひとつです。
まとめ
飲食店が利益を増やす方法は「売上を伸ばす」「コストを削減する」のいずれかです。「コストを削減する」は、自社内で完結するケースが多いため「売上を伸ばす」より取り組みやすいといえます。
飲食店のコストは、変動費と固定費にわかれます。主な変動費は原材料費、人件費、広告宣伝費、主な固定費は地代家賃、ガス代、電気代です。固定費は売上にかかわらず、毎月一定の費用がかかるため、削減できると長期にわたり効果を実感できます。地代家賃は家賃交渉、中食ビジネスへの移行、ガス代、電気代は別プラン、別会社への乗り換えで削減できる可能性があります。また、店舗総合保険などに加入している場合は、補償内容の変更や不要なオプションの解約などでも固定費を削減できるでしょう。この記事の内容を参考に、コスト削減に挑戦してみてはいかがでしょうか。