飲食関連事業を開業するのに必要な準備とは？開業資金・届け出・資格なども解説

「飲食店の開業を計画しているものの、準備の進め方がわからない」などと悩んでいませんか。無計画に始めると、思い通りの店舗にならないばかりか、処罰されることもあるため注意が必要です。飲食店の開業には、理想を具体化していくプロセスが欠かせません。また、開業資金や届け出、資格なども必要になります。この記事では、飲食店を開業する前に押さえておきたい準備の進め方を解説しています。以下の情報を参考にすれば、理想を具体化する方法、必要な届け出や資格、開業資金の調達手段などがわかります。開業を計画している方は参考にしてください。

初めにコンセプト・事業計画書を作成しよう

飲食店を開業するにあたり、最初に取り組みたいのがコンセプトの設計と事業計画の立案です。これらの役割と必要性は次の通りです。

コンセプト

コンセプトは「目指す飲食店の姿」です。例えば、「非日常を味わえるフレンチレストラン」をコンセプトにするのであれば、店舗名・内装・外装・メニュー・接客・マーケティングなどは、このコンセプトに従い設計していくことになります。

コンセプトを設計しなくても飲食店を開業することはできます。しかし、全体を貫く基本的な概念がないと、その場の雰囲気で飲食店の詳細を決定していくことになりかねません。一貫したメッセージをお客様へ伝えられないため、開業する店舗の強みがわかりにくくなってしまいます。明確なコンセプトを設計してから店舗づくりを進めましょう。

事業計画書

事業計画書は、頭の中にある計画を文字や数字などで表現したものといえます。具体的には、次の項目などで構成されます。

• 開業への想い

• 店舗の強み

• 資金計画

• 収支計画

事業計画書も、飲食店の開業に欠かせないものではありません。しかし、事業計画書を作成することで、現在の状況を客観的な視点から見直せるようになります。計画の抜けや漏れ、見通しの甘さなどに気づくため必要な書類です。また、第三者へ店舗の全体像を伝えやすくなります。資金を調達するとき、スタッフを募集するときなどに役立つ可能性があります。

コンセプトを作成するポイント

コンセプトは、飲食店の方向性を決める重要な指針です。よく考えて決定しなければなりません。ここではコンセプトを作成するときに意識したいポイントを紹介します。

重要なテーマを決める

コンセプトの前に、飲食店のテーマを決定します。テーマは、開業する飲食店を通じて達成したいことといえるでしょう。混同されがちですが、テーマとコンセプトは異なります。コンセプトは、テーマを達成する手段や枠組みです。したがって、コンセプトを作成する前にテーマを決定しなければなりません。

テーマは開業する動機から導き出せることがあります。飲食店を通じて達成したいことと重なっているケースが多いからです。テーマが思い浮かばない場合は、深く考えずに頭に浮かんだ案を書き出してみるとよいでしょう。テーマのヒントを得られることがあります。

コンセプトに落とし込む

テーマが決まったら、達成する手段を検討します。この手段がコンセプトにあたります。例えば、テーマが「飲食業を通して健康的な食生活を広める」であれば、コンセプトは「地元で栽培された無農薬野菜を使って伝統的な家庭料理を提供する」などのようになります。

店舗にとって理想的な顧客像を明確にすると、コンセプトを考えやすくなります。顧客が店舗に求めるものや顧客が困っていることなどが明確になるからです。コンセプトが思い浮かばない場合は、有名店や人気店のコンセプトを参考にしてもよいでしょう。ポイントは、掲げているコンセプトの背景を考えることです。採用の理由がわかれば、自店舗へ応用できる可能性があります。

5W2Hの要素で考える

コンセプトは、5W2 H 要素で考えるとより具体的になります。5W2Hは次の通りです。

テーマを踏まえてこれらに回答すると、開業する飲食店の目指す姿が明らかになります。各要素をまとめると店舗のコンセプトになるでしょう。記載している質問は一例です。Whyの項目に「なぜこのメニューなのか？」「なぜこの立地なのか」などを加えることもできます。さまざまな角度から質問すると、目指す飲食店の姿が明確になるはずです。

最後に見直しを行う

コンセプトが完成したら見直しを行います。チェックポイントは次の通りです。

• テーマとコンセプトに一貫性があるか？

• 現実的な内容になっているか？

• 顧客に伝わるコンセプトになっているか？

テーマとコンセプトがずれていると、店舗で達成したいことを実現できません。違和感がある場合は見直しを進めましょう。コンセプトが実現可能な内容になっていることも確かめておきたいポイントです。素晴らしいコンセプトでも、予算がかかりすぎるなどの理由で実現できないと、絵に描いた餅になってしまいます。自店舗に合わせたコンセプトへ修正が必要です。コンセプトには「顧客へ伝えるメッセージ」という面もあります。わかりやすいコンセプトは、差別化の要因になりえます。顧客に伝わるコンセプトになっていることも確かめておきましょう。

事業計画書を作成するポイント

事業計画書の作成に頭を悩ませる方は少なくありません。作成のポイントは次の通りです。

開業への想いを具体化する

事業計画書には、飲食店を開業しようと思った動機を記載します。事前の準備として、開業への想いを具体化しなければなりません。飲食店には、和食・イタリアン・フレンチ・中華など、さまざまなジャンルがあります。「計画しているジャンルをなぜ選んだか」を考えることが重要です。

夢を実現するため、積み重ねてきた準備を明らかにすることも欠かせません。例えば、開業のため飲食店で料理の腕を磨いた、自己資金を用意したなどが考えられるでしょう。計画的に行動していることがわかると、第三者へ本気度が伝わりやすくなります。

店舗の強みを伝える

事業計画書には、店舗ならではの強みも記載します。他店と差別化できなければ、事業計画を達成することは難しいからです。店舗の強みは、経営者の経歴と重ねると説得力を増します。

例えば、有名店でシェフとして勤務していた経営者であれば、味が強みになると考えられます。このような経験がない場合も、諦める必要はありません。味以外も店舗の強みになりうるからです。お洒落な内装、心地よいBGM、優れた接客、こだわりの食材なども顧客を惹きつけます。インテリアショップの勤務経験が、店舗の強みになるかもしれません。事業計画書を作成する前に、自身の経歴を整理してみましょう。

簡潔にまとめる

事業計画書は、第三者へ提出することが多い書類です。わかりやすさを重視することも欠かせません。冗長な文章になると、伝えたいことがぼやけてしまいます。一文一義を心がけて、文章を簡潔にまとめましょう。

使用する用語にも注意が必要です。専門家の常識が一般の常識とは限りません。専門用語を羅列すると理解を得られない恐れがあります。読む人にあわせて、使用する用語を選択しましょう。完成した事業計画書の見直し・修正もわかりやすさにつながります。音読をしたり第三者に読んでもらったりすると、修正箇所を見つけやすいはずです。

数字を用いる際はエビデンスを示す

事業計画書には、資金計画や収支計画を記載します。数字を用いるときは、エビデンスを示す必要があります。エビデンスを伴わない数字は、机上の空論になってしまうため、事業計画そのものの信頼性が下がってしまうからです。

例えば、飲食店の売上は「客単価×席数×回転率」で求められます。過去の事例などを参考に、現実的な数字を用いて根拠のある売上目標を立てなければなりません。資金計画や収支計画が、経営者の思い込みと捉えられないようにしましょう。

テンプレートを活用する

事業計画書の作成には、テンプレートを活用できます。テンプレートの魅力は、一定の品質を保ちながら、事業計画書の作成にかかる手間と時間を省けることです。飲食店の開業に利用できるテンプレートとして、日本政策金融公庫の公式サイトからダウンロードできる「創業計画書」があげられます。創業計画書は次の項目で構成されます。

• 創業の動機

• 経営者の略歴等

• 取扱商品・サービス

• 取引先・取引関係等

• 従業員

• お借入れの状況

• 必要な資金と調達方法

• 事業の見通し（月平均）

• 自由記述欄

参照：日本政策金融公庫「国民生活事業」

以上の項目を記載すると、開業する飲食店の姿が見えてくるはずです。

飲食店開業に必要な届け出

飲食店の開業には、さまざまな届け出が必要です。求められる届け出は、営業内容などで異なります。ここでは、必要な届け出の一例を紹介します。

飲食店営業許可

飲食店を開業する場合、飲食店営業許可を取得しなければなりません。申請は、店舗の所在地を管轄する保健所へ行います。基本的な提出書類は次の通りです（※具体的な提出書類は保健所でご確認ください）。

• 営業許可申請書

• 営業施設の図面

• 施設の所在地がわかる地図

• 食品衛生責任者の資格を証する書類

• 水質検査結果（水道水など以外の水を使用する場合）

• 登記事項証明書（法人の場合）

書類を提出後、施設検査を実施するため、事前に相談しておくと手続きを進めやすくなります。無許可で営業すると、食品衛生法違反などで罰せられる恐れがあります。余裕をもって申請を済ませておきましょう（所要期間はケースで異なります。申請のタイミングは保健所でご確認ください）。

防火対象物使用開始届

飲食店を開業するため建物を使用する場合、管轄の消防署へ防火対象物使用開始届を提出しなければなりません。提出を求められる理由は、防火対象物の使用用途を把握するとともに、必要な消防用設備などが設置されていることを確かめるためです。

具体的には、建物やその一部を新たに使用するケース、建物やその一部の使用形態を変更するケースなどで届け出が必要になります。既存の建物へ新たに入居するときも提出を求められる点がポイントです。参考に、基本的な提出書類を紹介します（具体的な提出書類は消防署でご確認ください。）

• 防火対象物使用開始届

• 付近見取図

• 建物配置図

• 各階平面図

• 建物立面図

• 消防用設備等の設計図書

提出時期は、使用を開始する日の7日前までです。

菓子製造業許可

パン・ケーキ・餅菓子などを製造し販売するときなどは、店舗の所在地を管轄する保健所へ申請して菓子製造業許可を取得しなければなりません。ただし、必要になる許可は店舗の営業形態で異なります。「テイクアウトだけの場合は菓子製造業許可」「イートインだけの場合は飲食店営業許可」「テイクアウトとイートインの場合は菓子製造業許可と飲食店営業許可」が必要になると考えられます（個別の判断は、保健所でご確認ください）。必要書類は飲食店営業許可と基本的に同じです。

深夜酒類提供飲食店営業開始届出書

深夜時間帯（午前0～6時）に、お酒をメインで提供する飲食店は、所在地を管轄する警察署長を経由して公安委員会へ深夜酒類提供飲食店営業開始届出書を提出する必要があります。

主食と認められる食事を提供している店舗は、深夜時間帯にお酒を提供しても、この書類を提出する必要はありません。つまり、深夜時間帯にお酒を提供する居酒屋やバー、立ち飲み屋などが対象になります（具体的な判断は警察署でご確認ください）。届け出にあたり必要になる書類は次の通りです（※詳しくは警察署でご確認ください）。

• 深夜酒類提供飲食店営業開始届出書

• 営業方法を記載した書面

• 営業所の平面図

• 住民票の写し

深夜酒類提供飲食店営業開始届出書を提出せず営業すると、50万円以下の罰金に処される恐れがあります。提出時期は、営業開始予定日の10日間までです。必要な場合は、忘れずに提出しましょう。

火を使用する設備等の設置届

店舗（建物内外）に一定規模以上の火を使用する設備（コンロ・炉・ボイラーなど）を設置する場合、所在地を管轄する消防署へ火を使用する設備等の設置届を提出しなければなりません。届け出を求められる設備として、固体燃料を使用する炉、排気取入口から下方に排気する方式の厨房設備などがあげられます。届け出のタイミングは、設備を設置する7日前までです（東京都消防庁の場合）。

飲食店開業に必要な資格

飲食店の開業にあたっては、次の資格も必要になります。

食品衛生責任者

食品衛生責任者の主な役割は、営業者の指示に従い施設の衛生管理に取り組むことです。飲食店を開業する場合、各施設に1名の食品衛生責任者を配置しなければなりません。また、飲食店営業許可の申請で「食品衛生責任者の資格を証する書類」の提出を求められます。

食品衛生責任者は、都道府県が適正と認める食品衛生責任者養成講習会を受講するとなれます。調理師・栄養士・製菓衛生士など、一定の条件を満たす方は、講習会の受講を必要としません。

防火管理者

防火管理責任者は、火災による被害を防ぐため、消防計画を作成し、防火管理業務を計画的に行う責任者です。スタッフを含め、収容人数が30名以上の飲食店は、防火管理者を選任しなければなりません。防火管理者の要件は必要な知識・技能を有していることです。ここでいう知識・技能は、通常、防火管理講習を修了して身に付けます。

講習は「甲種防火管理新規講習（2日間講習）」「乙種防火管理講習（1日間講習）」「甲種防火管理再講習（半日間講習）」にわかれます。甲種防火管理講習修了者はすべての防火対象物、乙種防火管理講習終了者は小規模な防火対象物（300平方メートル未満）で防火管理者に選任される知識・技能を有します。

飲食店開業に必要な費用

飲食店の開業に必要な資金は、店舗の立地や内装のグレードなどで大きく異なります。東京都で開業する場合、1,000万円程度かかるケースが多いといわれています。具体的に、どのような費用がかかるのでしょうか。

物件取得費

賃貸物件を借りるときにかかる費用です。保証金・礼金・仲介手数料・前家賃などの合計といえるでしょう。おおよその目安は、保証金が家賃6～10カ月分、礼金・仲介手数料・前家賃がそれぞれ家賃1カ月分です。

例えば、家賃20万円の物件であれば、物件取得費は180～260万円程度になると考えられます。大きな割合を占める保証金は、家賃の滞納や原状回復などに備えて貸主に預けておくものです。退去時に債務がなければ、基本的には返金されます。

店舗投資費

賃貸物件を飲食店として営業できる状態にする費用です。内装・外装・厨房設備・什器・備品などにかかる費用の合計といえるでしょう。例えば、厨房設備・什器としてシンク・ガスコンロ・作業台・冷凍庫・冷蔵庫・食器棚などがあげられます。具体的な金額は店舗の規模などで異なりますが、店舗投資費として500万円程度かかるケースが多いようです。店舗投資費を抑えたい場合は、居抜き物件を選ぶとよいかもしれません。残っている設備・内装などを活用できる可能性があります。

運転資金

開業後の店舗を運営していくための資金です。飲食店を開業しても、事業がすぐに軌道に乗るとは限りません。一般的には、軌道に乗るまで3～6カ月程度かかるといわれています。この間を乗り切る運転資金を用意しておく必要があります。例えば、地代家賃、人件費、光熱費などに60万円/月かかるのであれば、開業時に180万円程度の運転資金が必要になると考えられるでしょう。具体的な運転資金は、事業計画や返済計画などで異なります。

生活費

事業を軌道に乗せるまでの間の生活費も、開業資金に含めておく必要があります。開業時に3～6カ月分程度の生活費を用意しておくと、店舗の運営に集中しやすくなります。生活費は、家賃・食費・光熱費などで構成されます。無駄な費用をカットすると、事業に活用できる資金を増やせるかもしれません。開業前に生活費の見直しも進めておきましょう。

開業資金が足りない場合の対処法

飲食店の開業には、まとまった費用がかかります。開業資金が足りないときは、どうすればよいのでしょうか。

親族や友人に頼る

最初に検討したいのが親族からの借入です。一定の信用があるため、熱意や計画を伝えるとまとまった資金を貸してくれることがあります。トラブルにならないように、借入時に返済計画を示しておくことが重要です。

同様の理由で、友人も資金を貸してくれることがあります。ただし、少額の借入になることが多いでしょう。人数を増やすとそれなりの金額になりますが返済の手間も増えます。友人から借り入れる場合も、トラブルに発展しないように返済計画を示しておくことが重要です。

金融機関から融資を受ける

民間の金融機関から融資を受けることもできます。飲食店の開業に適している金融機関として、一定地域内の中小企業や個人事業主を主な取引先としている信用金庫・信用組合があげられます。ただし、融資を申請する際に営業許可証が必要になります。営業許可証は、設備基準を満たしていないと交付されません。つまり、物件取得費や店舗投資費などに融資を活用することは難しいといえます。この点は地方銀行・都市銀行も同様です。これらの費用は自己資金で賄うことになります。

日本政策金融公庫の融資制度を活用する

物件取得費などが不足している場合は、日本政策金融公庫の活用を検討するとよいでしょう。融資審査に通れば、営業許可証が発行されていない段階でも借入金の入金を受けられます。金利が低く設定されているケースが多い点、個人事業主や小規模企業、中小企業を対象とするさまざまな融資制度を用意している点も魅力です。

補助金・助成金制度を活用する

自治体などが実施している補助金・助成金（名称・制度は自治体などで異なります）を活用できるケースもあります。これらの魅力は、基本的に返済義務がないことです。ただし、開業後でないと申請できないものや申請から受給まで時間がかかるものが多いため、物件取得費などに活用できないケースが少なくありません。公式サイトで対象者や対象経費などを確認してから申請しましょう。

クラウドファンディングを始める

クラウドファンディングで資金調達を目指すこともできます。主なメリットは次の通りです。

• 実績がなくても資金を調達できる可能性がある

• 活動を通してファンを獲得できる

• 見込み客のニーズを把握できる

ただし、資金を調達できないケースもあります。例えば、ALL or Nothing方式は、目標金額に達しなければ資金を受け取れません（All in方式は目標金額に達しなくても集まった資金を受け取れます）。プロジェクトを成立させるため、支援者といい関係を構築する、適切なリターンを設定する、話題を集める仕掛けをするなどの取り組みが必要です。

まとめ

飲食店の開業手続きは店舗により異なります。すべての飲食店に必要な手続きとして食品衛生責任者の配置があげられます。一定の条件を満たす場合は、防火管理者の配置も必要です。また、店舗の業態などにあわせて、飲食店営業許可、防火対象物使用開始届などの届け出も求められます。開業したい飲食店にあわせて必要な手続きを行いましょう。

所定の手続きを済ませれば飲食店を開業できますが、想定通りに運営できるとは限りません。他店と差別化を図るため、あるいは計画の漏れや抜けを減らすため、店舗のコンセプト、事業計画を作成しておくことも重要です。

当然ながら資金計画・資金調達も欠かせません。自己資金が不足している場合は、日本政策金融公庫の活用、親族・友人からの借り入れなどを検討できます。この記事を参考に、飲食店の開業準備を進めてみてはいかがでしょうか。